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オンプレミス(自社サーバー)で管理しているシステムをクラウドに移行するにあたって、移行を阻む課題を網羅的に把握しておきたい方は多いのではないでしょうか。
安全にクラウド移行するために、事前に課題をしっかりと理解しておくことはとても重要なことです。
最近では「オンプレミス回帰」(クラウド移行したシステムをオンプレミスに戻すこと)の動きもあり、なおさら不安に思っている方も多いかもしれません。
クラウド移行を検討するうえでネックとなる課題には以下のようなものがあります。

ただしこの中には「よくある誤解」も含まれています。例えば、総務省の調査で「クラウドサービスを利用しない理由」を聞いた質問の回答で1位となっている「改修コストが高い」についてですが、実はクラウド移行の方法によってはむしろ初期費用ゼロでのクラウド移行も可能なんです。
このように、クラウド移行のネックとなっている課題の中には、思い込みによる不安や誤解も多く含まれているのが実情です。
そこで本記事では、クラウド移行に際してよく課題として挙げられる点についての実情をお話するとともに、それらを踏まえて「クラウド移行したほうが良いのか」「現状維持が良いのか」を判断できるようなコンテンツを用意しました。

「クラウド移行を進めたくてもなかなか進まない」という企業はぜひ参考になさってください。
1.クラウド移行を妨げる7つの課題と対策

社内システムをオンプレミスからクラウド環境に移行しようとしても、さまざまな課題が立ちふさがってなかなかうまく行かない現状があるかもしれません。
ここでは、総務省が令和5年に実施した「通信利用動向調査(企業編)」の結果も参考にしながら、企業がクラウド移行をする上での課題について網羅的に解説していきます。
【「クラウドサービスを利用しない理由」の回答(複数回答)(n=224)】
クラウドサービスを利用しない理由 | 割合 |
クラウドの導入に伴う既存システムの改修コストが大きい | 24.2% |
情報漏えいなどセキュリティに不安がある | 24.2% |
ネットワークの安定性に対する不安がある | 15.2% |
通信費用がかさむ | 13.9% |
ニーズに応じたアプリケーションのカスタマイズができない | 11.4% |
法制度が整っていない | 3.3% |
クラウドの導入によって自社コンプライアンスに支障をきたす | 1.9% |
必要がない | 44.7% |
メリットが分からない | 16.1% |
その他 | 10.5% |
無回答 | 1.3% |
この回答も踏まえた上で、「クラウド移行を進める上での課題」には以下のようなものがあります。
クラウド移行を進める上での7つの課題
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それぞれの課題についての詳細や具体的な対策を解説していきます。
1-1.課題1:クラウドに移行するための初期投資のコストがネック
クラウド移行を進めるにあたって大きなネックとなるのが、オンプレミスからクラウドにシステムを移行するためのコストではないでしょうか。
特に複雑なシステムや大規模なシステム・データをクラウド移行する場合には、データ移行コストやシステム再構築費用、新しいクラウドシステムを利用するためのコストなど、多くの費用が必要となります。
しかしながら、既存のオンプレミスのシステムをそのままクラウドに移行するのではなく、同等の機能を持つSaaS(パッケージシステム一体型)に切り替える場合には、初期投資コストは安く抑えることが可能です。既にできあがっているパッケージを利用するようなクラウドサービスの場合、初期費用はゼロというケースも少なくありません。
また、コスト面で考えるのであれば、クラウド移行した後のメンテナンスにかかるコストや人員を減らせるメリットが大きいため、初期投資のコストを支払ってもクラウド移行した方がコスト削減につながるケースも多くあります。
このように、システムが複雑化している場合には、システムをそのまま移行するのではなく解体して、新規で最小に近い構成でシステムを組むことで初期投資を抑えることが可能です。特に、既に機能として完成されているSaaS型のクラウドサービスを活用すれば、初期費用も運用コストも大幅に削減することができるでしょう。
1-2.課題2:セキュリティが不安でクラウド移行がなかなか進まない
クラウド移行がなかなか進まない理由として、セキュリティ面がネックになっている企業も多いでしょう。
総務省が令和5年に実施した「通信利用動向調査(企業編)」の結果でも、24.2%の企業が「クラウドサービスを利用しない理由」の回答として「情報漏えいなどセキュリティに不安がある」を挙げています。
常にインターネットと繋がっているクラウド環境は、確かに、「オンプレミスよりもセキュリティリスクが高い」と言わざるを得ない面はあります。しかしながら、しっかりと対策を講じているクラウド環境やクラウドサービスを正しく利用すれば、安全性を実現することができます。
もちろんクラウド事業者側の過失によるセキュリティ事故も発生していますが、多くの事故はクラウド利用者側の設定ミスや運用ミスなどが原因で起こっていることを知っておくと良いでしょう。
セキュリティ面がクラウド移行の課題となっている場合には、以下のような対策を取るのがおすすめです。
セキュリティ面がクラウド移行の課題になっている場合の対策方法
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最新のクラウドセキュリティについてさらに詳しく知りたい方は、「クラウドセキュリティ」の記事もぜひご覧ください。
1-3.課題3:ネットワークの安定性に対する不安がある
ネットワークの安定性に対する不安があり、それが課題でクラウド移行を妨げているケースもあります。
クラウド移行するとクラウドサービスにインターネット経由でアクセスするため、ネットワークの安定性が直接、企業の営業活動に大きな影響を与えることになります。
例えば、データトラフィック増大でネットワークの遅延が起きたり、ネットワーク障害が起きるとサービスが利用できなくなったりするリスクがあります。また、クラウドサービスの利用が増加することで、社内ネットワークに大きな負荷がかかることもあるでしょう。
ネットワークの安定性に対する不安がある場合には、以下のような対策方法があります。
ネットワークの安定性がクラウド移行の課題になっている場合の対策方法
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クラウド移行によりネットワークに対する負荷が増える一方で、インフラ環境は事業者側で用意されているため、機器の購入費用や保管スペース、電気代などのコストを抑えられるメリットがあります。
ネットワーク負荷増大のデメリットと、クラウド移行のメリットを総合的に比較することが重要です。
1-4.課題4:従量課金のクラウドサービスのコスト予測がしづらい
コスト予測がしづらく、導入後のコストイメージが描きにくいのも、クラウド移行における課題の一つです。多くのクラウドサービスが、使った分に応じて料金を支払う「従量課金制」を採用しているため、実際にいくらかかるのかを事前に予測しにくいのです。
コスト移行後も料金は一定でなく、月ごとに請求金額が変動することになります。事前に想定していたよりも多く利用すれば、もちろん予算超過する可能性もあるでしょう。
事前のコスト予測が難しくてクラウド移行が進まない場合の対策方法は、以下のようなものが挙げられます。
コスト予測のしづらさがクラウド移行の課題になっている場合の対策方法
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コスト削減効果を期待してクラウド移行を検討している企業も多い中、移行した結果コストが増大してしまったら本末転倒です。
現在のシステムの見直しや再構成も視野に入れて、クラウド移行を進めていくことをおすすめします。
1-5.課題5:カスタマイズの自由度が低い
クラウドサービスへの移行を検討しているものの「カスタマイズの自由度の低さ」をネックと考える企業も多いかもしれません。
総務省が令和5年に実施した「通信利用動向調査(企業編)」の結果でも、「クラウドサービスを利用しない理由」の回答として「ニーズに応じたアプリケーションのカスタマイズができない」と答えた企業は11.4%でした。
クラウドサービスはあらかじめサービス提供側が構築した環境を利用するため、システム構築段階から自社に合わせて環境を構築できるオンプレミスと比べるとカスタマイズ性では構いません。基本的にハードウェアの選定はできないほか、OSやサーバーのスペック、ネットワークの種類などはある程度カスタマイズできますが、用意された選択肢から選ぶこととなります。
以下のような対策を行うことで、クラウドサービスの種類によってはカスタマイズ性を高めて構築することは可能です。
カスタマイズ性の低さが課題になっている場合の対策方法
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「カスタマイズ性が低い」ということは、裏を返すと、自社で構築しなくてもすぐに利用できる環境が揃っているということでもあります。また、法改正などでシステム改修が必要な場合にも、ベンダー側で最新の法律に準拠してくれるようなサービスもあります。
現在の業務を振り返ってみて、「それでもカスタマイズ性を重視したいのか」、はたまた「カスタマイズ性を諦めて開発・運用コストの削減を期待してクラウドサービスを利用するのか」、判断していくことも大切です。
1-6.課題6:クラウドに詳しいIT人材が不足している
クラウド移行の妨げとなっている課題が、「社内にクラウドに詳しいIT人材がいない」ということもあるでしょう。
オンプレミスからクラウド環境へ移行し、その後クラウド運用していくためには、クラウドの知識を豊富に持つIT人材の存在が必要となります。しかしながらIT人材が不足している現在では、新しい分野の知識を持つ人材が見つかりにくい現状があります。
オンプレミス運用についての高度な専門知識や経験を持つ人材がいても「クラウドの知識はない」と言った場合、クラウド移行を躊躇するきっかけになりえます。
クラウド人材不足が課題となっている場合の対策方法
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クラウドに詳しい人材は常に不足していますが、そんな中でもクラウド移行を決める会社は増えています。まずはクラウドサービスのベンダーに相談して、社内に知識が不足していてもスムーズに移行できるか相談してみましょう。
1-7.課題7:社内の既存システムとの連携がネックになっている
クラウド移行の課題となるものとして最後に紹介するのは、社内の既存システムとの連携がネックになり、なかなかクラウド移行が進まないケースです。
例えば、長年複雑・大規模化してしまった自社システムを見直して、優先度の高い業務から徐々にクラウドサービスに移行するようなケースで多く見られます。少しずつクラウド化を進めたいものの、既存システムとの連携が難しいため、なかなかクラウドに移行することができないのです。
既存システムとの連携がネックになる場合の対策方法
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どのように進めていくか自社で判断するのが難しい場合には、クラウドベンダーやクラウド移行のコンサルティングを行っている企業に相談するのがおすすめです。
2.クラウド移行かオンプレミス継続か判断する4つの基準

1章ではクラウド移行を検討する際によくある課題を解説しましたが、ここからは、クラウド移行かオンプレミス継続かを判断するための基準について説明していきます。
昨今クラウド移行を進める企業が多い背景には、クラウドには以下のようなさまざまなメリットがあるからです。
多くの企業がクラウド移行を進める理由(クラウド移行のメリット)
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このような多くのメリットを考えると、できればクラウド移行を前向きに進めていきたいと考える企業が多いのではないでしょうか。
しかしながら、1章で解説したようなクラウド移行のデメリットが大きな問題となり、すぐにはクラウド化が難しいケースもあります。そのような場合は、クラウド移行を見送ってオンプレミスを続行する判断をすることになるでしょう。
クラウド移行かオンプレミス継続かを判断するための基準について、詳しく説明していきます。
2-1.判断基準1:自社システムをクラウドで実現できるか
クラウド移行するかオンプレミス継続するかの判断基準として、「そもそもクラウドサービスを使って自社システムを実現できるのか?」という点が挙げられます。
前述した通りクラウドサービスによってはカスタマイズ性が低いケースがあり、また、既存の社内システムと連携が難しいケースも考えられます。特に自社システムに複雑なカスタマイズを施している場合には、クラウド移行時に大きなネックになる可能性があります。
クラウドで自社システムを実現できないとなると、クラウド移行することで業務効率の低下につながりかねません。また、業務フロー自体を変えなければいけなくなりかもしれません。
そのため、クラウド移行による自社システム構成の実現が難しい場合には、オンプレミス継続が望ましいという判断になることが多いでしょう。
2-2.判断基準2:クラウド移行することでコスト削減効果が期待できるか
クラウド移行かオンプレミス継続かを判断する2つ目のポイントは、コスト面での比較です。つまり、クラウド移行することで大幅なコスト削減効果を期待できるのならば、クラウド移行を積極的に進めていったほうが良いでしょう。
具体的には、クラウド移行にかかる費用と移行後の運用コストと、オンプレミスを継続した場合の運用コストや追加での開発コスト、緊急時を含めた保守・メンテナンスにかかわる人件費も含めて比較を行うなどです。
前述した通り、クラウドサービスの多くは従量課金制となっており、データ転送量が多い場合にはコストが増大する可能性もあります。そのため、従量課金制の部分をしっかりと誤差なく見積もることが大切です。
2-3.判断基準3:今後も社内で障害対応を継続できるか・したいかどうか
障害発生時の対応も、クラウド移行を推し進めるべきかどうかの重要な判断ポイントとなります。
オンプレミスを継続する場合には引き続き障害対応を社内で行う必要があります。障害対応できる人員の確保や育成にリソースを割けるかどうかが判断の分かれ目です。
一方でクラウドサービスの場合は、基本的に障害対応はクラウド事業者側のお仕事となり、社内の負荷が減ります。障害対応に対する社内の負荷を軽減したい場合には、クラウド移行を積極的に進めていくことを検討しましょう。
2-4.判断基準4:クラウド移行でセキュリティ要件を満たせるかどうか
クラウド移行しても自社のセキュリティ要件を満たせるかどうか、も重要なポイントとなります。移行先のクラウドサービスがセキュリティ要件を満たしていなければ、クラウド移行をしても意味がありません。
なお、複数のクラウドサービスを並行して導入していく場合には、統一したセキュリティポリシーを適用しにくいという課題もあります。ベンダーごとにセキュリティレベルが異なるからです。
クラウド移行を強力に推進していきたいならば、社内のセキュリティに関する考え方も最新の脅威や技術に対応できるよう、柔軟に変えていく必要があるかもしれません。
3.クラウド移行ではなくオンプレミス続行を検討しても良い企業の特徴

クラウド移行を検討する上での課題を網羅的に確認する中で、自社の中でどの部分がネックになっているかが明確に見えてきた方も多いかもしれません。
クラウド移行にはさまざまなメリットがありつつもデメリットや課題もあり、「全ての企業がクラウド移行すべき」という簡単なものではありません。
特に、「クラウド移行がなかなか進まない」「オンプレミスのほうが良い理由がある」という企業の場合、強引にクラウド移行を進めても上手く行かないケースもありえます。
クラウド移行ではなくオンプレミス続行を検討しても良い企業は、例えば以下のような特徴を持つ企業です。
クラウド移行ではなくオンプレミス続行を検討しても良い企業の例
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上記のような場合、クラウド移行のメリットよりもデメリットが大きくなってしまうため、このままオンプレミスの継続を検討したほうが良いかもしれません。
また、場合によっては、クラウドのメリットを持ったオンプレミス(ハイブリッドクラウド)やマルチクラウドを利用した運用についても検討してみることをおすすめします。
4.クラウド移行を前向きに進めるのがおすすめの企業の特徴

ここからは前章の内容とは逆で、自社サーバーでの運用からクラウド移行を積極的に進めたほうが良い企業の特徴について解説していきます。
クラウド移行に前向きに取り組むべき企業はずばり、クラウド移行することで大きなメリットが見いだせる企業といえるでしょう。具体的には、以下のような企業です。
クラウド移行を前向きに進めるのがおすすめの企業の例
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上記に該当する企業の場合、クラウド移行によるコスト削減や柔軟なスケーラビリティ、IT管理の負担軽減のメリットが大きく、業務効率向上や成長促進に貢献する可能性が高いといえます。
そのため、クラウド移行を積極的に検討し、コスト比較の試算も十分に行ったうえで、前向きに進めていくことをおすすめします。
5.クラウド移行すべきか判断が難しい場合は株式会社クエストにご相談ください

クラウド移行を進めたくてもさまざまな課題がありなかなか進められない企業は多くいらっしゃるでしょう。課題解決に向けてサポートが必要な企業は、当社にご相談ください。
クエストはAWSやMicrosoft Azureのクラウド移行や統合環境の構築はもちろん、自社に残す基幹システム等との連携など、あらゆるクラウドへのニーズにお応えするクラウド基盤サービスを提供しています。
当社クエストが提供するクラウド移行関連サービス |
なお、クラウド移行した具体的な事例についてもぜひ参考になさってください。
6.まとめ
本記事では、クラウド移行を阻む課題や、それでもクラウド移行すべきかどうかの判断基準について解説してきました。最後に、要点を簡単にまとめておきます。
▼クラウド移行を妨げる7つの課題と対策
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クラウド移行かオンプレミス継続か判断する4つの基準
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クラウド移行ではなくオンプレミス続行を検討しても良い企業の特徴
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クラウド移行を前向きに進めるのがおすすめの企業の特徴
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「クラウド移行を進めたいのになかなか進まない」という企業は、ぜひ株式会社クエストにお気軽にご相談ください。当社と二人三脚で、クラウド移行の妨げになっている課題を一つずつクリアしていきましょう。