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深刻なIT人材・DX人材の不足

DX人材の定義と必要性

経済産業省はIT人材を2つのタイプに分類しています。「従来型ITシステムの受託開発、保守・運用サービス等に従事する『従来型IT人材」」と「AI(人工知能)やビッグデータ、IoT(モノのインターネット)等、第4次産業革命に対応した新しいビジネスの担い手として、付加価値の創出や革新的な効率化等により生産性向上等に寄与できる『先端IT人材』」です。

DXを進める上で欠かせないのは、適切な人材です。経済産業省はDX人材を「自社のビジネスを深く理解した上で、データとデジタル技術を活用してそれをどう改革していくかについての構想力を持ち、実現に向けた明確なビジョンを描くことができる人材」と定義しています。

さらに、DXを進めるには、IT部門の人材だけでは不十分です。事業部門側にもDXに対する正しい理解があり、DXプロジェクトを統括できる人材が必要です。DXを成功させるには、両者の連携が不可欠なのです。しかし、こうした人材の不足がDXの足かせとなっています。

データで見るDX人材の需給バランス

経済産業省の調査によると、DX化が遅れたまま2025年を迎えた場合、2025年以降に最大で年間12兆円の経済損失が発生する可能性があるとされており、同省はこれを「2025年の壁」と呼んでいます。

こうした中、DX人材の不足は、DXの推進における重要な課題です。国際比較でも、日本企業が人材不足を最も深刻に感じている割合が圧倒的に高いことが示されています。

【デジタル・トランスフォーメーションを進める際の課題】

IT人材・DX人材不足:デジタル・トランスフォーメーションを進める際の課題のデータ

※出典:総務省(2021)「デジタル・トランスフォーメーションによる経済へのインパクトに関する調査研究」

では今後2030年までにIT人材の需要はどのように変化していくのでしょう。同省委託事業の調査によると、最大70万人、最低でも16万人のIT人材が不足する見込みです。

【IT人材需給に関する試算】

IT人材・DX人材不足:IT人材需給に関する試算のデータ

※出典:経済産業省(2019)「IT 人材需給に関する調査」

また、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)の2022年度調査によれば、DXを推進するための人材が充足していると回答した企業は、日本ではわずか10.9%に過ぎず、一方で米国では73.4%に上ります。

【DXを推進する人材の「量」の確保に関する日米比較】

IT人材・DX人材不足:DXを推進する人材の「量」の確保に関する日米比較

※出典:独立行政法人情報処理推進機構「DX白書2023」

さらに、セキュリティの分野でも人材不足が深刻な状況であり、「セキュリティ人材が充足している」と回答した企業は約1割程度にとどまっています(総務省:2021年「情報通信白書」)。

「先端IT人材」の不足が企業の競争力にも影響

IT人材・DX人材不足の背景と企業に及ぼす影響

IT人材・DX人材の不足の背景には、需要の高まりがあります。特に、先端IT人材やDX人材が求められていますが、供給が追いついていないのが現状です。その理由として、以下のような要素が挙げられます。

1. 技術の急速な変化
デジタル技術の進化は非常に速いペースで行われています。新たな技術の登場により、企業はこれらを活用するための専門知識を必要としています。しかし、このような新技術の専門知識を持つ人材は限られており、需要と供給のギャップが生じています。

2. 教育体制の遅れ
DXに必要なスキルを習得するための教育体制が遅れていることも、人材不足の要因です。大学や短期講座などでの教育プログラムでは迅速に変化するテクノロジーに追いつくことが難しく、DXに関する教育はビジネス・情報学部などの伝統的な学問体系に組み込まれていません。
さらに、日本企業は米国企業と比較して、DX推進人材の育成施策や予算が不足しているという課題も抱えています。また、従来型のIT人材が先端的なIT領域のスキル習得に消極的であり、スキルアップが進まないという問題もあります。

3. 人材スペックやポジションの不明瞭さ
DXを推進する人材を獲得・確保する上で、「戦略上必要なスキルやそのレベルが定義できていない」「採用したい人材のスペックが明確でない」といったように、求める人材レベルやポジションが明確でないことも問題です。このため、要求水準を満たす人材にアプローチできないという事態も生じています。

人材不足の影響は、DX推進の足かせとなり、企業の競争力にも影響を及ぼします。開発の遅れや新たなビジネスやサービスの創出(イノベーション)への影響、情報セキュリティの脆弱性などが懸念されます。

事例で紹介:人材不足を解消する対応策とは

IT人材・DX人材の不足に対応するにはいくつかの手段があります。ここでは事例と共にご紹介したいと思います。

1. アウトソーシングサービスの活用

ITに関連したすべての業務を社内人員だけで対応する必要はありません。人材育成への人的・時間的リソースが割けない場合は、外部の専門企業や個人にDX業務を委託することで人材不足を補うことも有効です。

たとえばプラスチック成形機械メーカーA社では、機械製品をクラウド上でデータ解析するツールを作成しましたが、個々の担当者の独学では対応が難しい状況でした。専任エンジニアの採用に踏み切るも、求める人材は引く手あまたで採用に結びつかないという事態に。
そこでエンジニア専門の人材派遣会社を活用し、AWS有資格者で機械にも興味があるエンジニアの受け入れに成功しました。将来的には正社員としての雇用に切り替える見通しです。

2. 人材育成・リスキリングの拡充

リソースを割けるのであれば、従業員のスキルアップや教育プログラム充実化を図ることで、内部からの人材育成を進めるのも効果的です。

たとえばデジタル系から非デジタル系まで複数の事業を行うB社では、IT部門の一部に高いスキルを持つ人材がいるものの、商材を提供する営業部門の社員や50代以上の社員の多くはITへの理解度に不安を抱えていました。そこで専門の教育機関を活用し、前者には「デジタルマーケティング+ITリテラシー研修」を、後者には「ITリテラシー研修」を導入。
ITへの苦手意識の解消に加え、デジタルマーケティング部門の人員拡充への第一歩も踏み出せました。

3. ダイレクトソーシングやリファラル採用の積極的な活用

アメリカのように、「ダイレクトソーシング(特定技術を有する企業や個人との契約)」や「リファラル採用」といった手段も考慮すべきです。

たとえばクエストでは、従業員のネットワークを活かしたリファラル採用を推進しており、採用後のミスマッチを防ぐとともに採用コスト削減を実現しています。

具体的な実績として、アプリケーション開発エンジニアやインフラエンジニアの採用を中心に、直近7年で約60名の採用に成功しています。また、リファラル経由で入社した人材は比較的早い段階でリーダーまで成長したケースが多く、クエストと相性の良い人材(企業の文化など、諸々の環境との親和性が高い人材)が多い印象です。

リファラル採用の取り組みにより、社内に質の高いIT人材・DX人材を確保し、組織全体の人材力を強化し続けています。

さいごに

IT人材・DX人材、特に先端IT人材は不足しており、将来的にも不足が予想されます。企業の競争力を左右する重要な要素であるDXにおいて、中長期的な視点での人材採用や人材育成、アウトソーシングの活用など、総合的な対応策が求められます。これらの取り組みによって、持続的な成長と競争力の強化に向けた基盤を築くことができるでしょう。