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「業界問わずDXが進められているけど、IT化じゃだめなの?そもそもIT化との違いは何?」
「自社で業務プロセスのIT化を進める計画はあるけど、これってDXとは違うのだろうか?」
そのように、DXとIT化の違いについて疑問をお持ちではありませんか?
結局どちらもデジタル技術を活用することには変わりないため、何がどう違うのかわからないというのは当然のことと思います。
ただ、結論からお伝えすると、DXとIT化では実施する目的が大きく異なります。
DXが、「ビジネスに変革を起こして競争優位性を確立すること」を目的としているのに対し、IT化は「業務の効率化」を目的とした取り組みなのです。

目的が異なるため、どちらを実施すべきかは自社の課題によって違ってきます。
例えば、建築会社において、
「事務作業を行うために、現場監督が帰社する必要があり、そのための時間・コストがムダになっている。さらに現場を離れている間の作業効率も良くない。」
という課題の解決を目指すなら、取り組むべきは、業務の効率化が目的であるIT化です。逆に、現状ではDXは不要な取り組みと言えます。
このように、一種の流行のように取り沙汰されていますが、DXは必ずしもあなたの会社にとって必要なものとは限らないのです。
にも関わらず、DXとIT化それぞれの実態を理解しないまま、「とりあえずみんなやっているから」とDXに取り組もうとするのは危険です。
不必要にビジネスモデルを変革することで、顧客が離れてしまったり、従業員が流出したり、と逆に企業存続を脅かす事態になりかねません。
そうした事態を回避し、自社課題を解決に導くためには、DXとIT化の違いを明確に理解し、本当に必要な取り組みを判断する必要があります。
その一助となるよう、この記事では以下の内容をご紹介します。
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DXとIT化の違いが明確に理解でき、自社にとって有用なのはどちらか判断できる内容となっています。
ぜひ最後まで目を通してみてくださいね。
1. DXとIT化の大きな違いは目的にある

冒頭でもお伝えしましたが、DXとIT化の最大の違いは、それぞれの目的にあります。
その違いをより詳しく把握していただくために、まずはDXとIT化それぞれの定義を確認した上で、目的の違いを改めて説明しますね。
1-1. DXとは
DXの定義は、文脈や情報元によりさまざまですが、ここではよく参考にされる経済産業省による定義をご紹介します。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。 |
こちらを見ればわかるように、DXで目指すこと(=目的)は、「ビジネスに変革を起こして競争優位性を確立すること」です。
そしてそのための手段として用いられるのが、データやデジタル技術です。
こういったことから、DXとは例えば以下のような取り組みと言えます。
【工場ごとに異なる商品を製造し、販売店に卸している家具メーカーの例】
生産管理システムや機器の制御システムを全工場で統一・連携し、部品ごとの図面データも全社で共有。
(各工場が別の工場で担当していた商品や部品を柔軟に製造できるようになる)
↓
商品・部品の柔軟な組み合わせが可能になったことで、従来の大量生産だけでなく、多品種少量生産にも対応可能に。
↓
オーダー用のアプリを通じたセミオーダーメイドサービスをリリース。
従来のBtoBのビジネスモデルからDtoCの新たなビジネスモデルが確立される。
DXは、このようなビジネスの変革を前提とした取り組みであることを抑えておきましょう。
1-2. IT化とは
IT化とは、一般的に「ITやデジタル技術の活用によって、業務プロセスを効率化すること」です。
つまり、IT化の目的は平たく言えば「業務の効率化」です。
そのための手段として、IT(情報技術)やデジタル技術を用います。
例を挙げるなら、以下のような取り組みがIT化に当たります。
- 打ち合わせの際の移動時間やコストを削減するためWeb会議ツールを導入する
- 営業効率を上げるため、コーポレートサイトの問い合わせフォームとWeb広告を活用する
- 売上管理業務を効率化するため、会計システムを導入する
このようにIT化は、ビジネスを支える業務を、より迅速に、より小さなコスト・労力で遂行するための取り組みであることを押さえておきましょう。
1-3. DXとIT化の目的の違い
ご紹介した通り、DXとIT化ではそもそも目的が異なります。
目指すべきゴールが違うため、取り組み方にも違いが出てきます。
ここで、改めて両者の目的を見比べてみましょう。
【DXの目的】
ビジネスに変革を起こして競争優位性を確立すること
【IT化の目的】
業務の効率化
このようにDXは、市場の中で優位な立場を築くことを目的としている以上、ビジネスモデルの変容や、新規事業の創出を伴う全社的な取り組みとなります。
一方でIT化は、業務の進め方に焦点を当てた取り組みであるため、基本的にはDXとは違い、ビジネスの根本的なあり方にまでは変化を及ぼしません。
部署ごと・拠点ごとにスモールスタートすることも可能です。
このように、DXとIT化では、そもそも目的が異なるため、実施後の企業のあり方や、取り組みの過程・規模などにも違いが見られるのです。
2. DXとIT化で大きく違う取り組み方

お伝えしたように、そもそも目的の異なるDXとIT化では、取り組み方においてもさまざまな違いが見られます。
以下はその違いを大まかにまとめたものです。
違い | DX | IT化 |
規模 | 全社 | 部署/チーム単位から可能 |
期間 | 長期 | 短期でも可能 |
コスト | 大きな投資が必 | 少額から可能 |
実施後の変化 | ・ビジネスモデルの変容 ・新規事業の創出 |
業務の時間短縮/省人化 |
こうした違いをイメージしやすくするため、DX/IT化の取り組み方について、例を用いて説明しますね。
2-1. IT化の取り組み方
例えばアパレル小売の企業が、「顧客の声をもとに商品を改良するプロセス」の効率化を目指してIT化に取り組んだとします。
すると、例えば次のような取り組みや変化が見られるはずです。
【取り組み】 顧客の声を収集・集計するためのWebアンケートシステムを導入 【変化】 既存のプロセス IT化実施後のプロセス |
こうした取り組みは、主にアンケートの収集・集計を担ってきたチームの業務効率を改善するものですから、店舗スタッフ・マーケティング部などを中心とした部分的なものと言えます。
また、具体的な取り組みは、「Webアンケートシステムの導入」であるため、何年もかかるプロジェクトではありませんよね。必要なコストもシステムの導入費や利用料のみです。
そして実施後は、アンケートの収集・集計が自動化されるため、業務の時間短縮・省人化が叶ったことになります。
これらのポイントを念頭に、次はDXの取り組み方についても見てみましょう。
2-2. DXの取り組み方
より違いをわかりやすくするため、DXの取り組み方もアパレル小売の企業を例に説明しますね。
実店舗での商品販売が主な収入源だった企業が、オンライン専用ブランドの立ち上げにより、競合との差別化を図ることを目的にDXを実施した場合について考えてみましょう。
【取り組み】
【変化】
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こうした取り組みは、企業の根本的なあり方に関わるものであり、実店舗スタッフから生産管理部などのバックオフィスまで巻き込んだ全社的な取り組みとなるはずです。
また、オンラインに軸足を置いた新事業の立ち上げとも言える取り組みを実施し、その事業を成長させるには数年スパンの期間を要することでしょう。
必要なコストも、AIカメラの導入費や利用料のみならず、新ブランドを立ち上げ、運営するための投資が少なからず必要になってきます。
このような取り組みは、「顧客のニーズに細やかに応える」という点で競合との差別化を実現させ、収益構造にも大きな変化を与え得るのです。
このように、同じ業態の企業がDX/IT化を実施した場合の取り組み方を比べてみると、両者の違いがイメージしやすくなるのではないでしょうか。
3. DXとIT化の関係性

ここまでで、DXとIT化の違いが大まかにおわかりになったかと思います。
とはいえ、両者は全く関係性のない取り組みというわけではありません。
DXを進める上で、ある程度のIT化は必須なのです。
というのも、DXは先述の通り「データとデジタル技術」を活用した取り組みであり、企業の持つ情報がデータとして創出・保管されている状態が前提となっているからです。

例えば、先ほど例に出したアパレル企業のDXについて再度考えてみましょう。
具体的な取り組み例の一つとして、
「実店舗へのAIカメラ導入により、顧客層ごとに関心度や購買結果を分析」
を挙げましたが、これはただAIカメラさえ導入すれば良いということではありません。
AIカメラのシステムが、顧客の行動から顧客の関心や購買傾向を分析するには、例えば以下のような前提が必要です。
- 自社商品の情報がデータとして保管されている
- 販売情報がデータとして記録・集計されるPOSが導入されている
こうした前提により、AIカメラのシステムが扱える形(データ)で情報が保管されているからこそ、「どのような顧客が、どの商品を手に取り、実際何を購入したか」という分析が可能となるのです。

逆に、紙の商品一覧表を使っていたり、町の商店のようにただ金銭の授受が行われるだけであったりと、IT化が全く進んでいないと、AIカメラが分析に用いるデータが存在しません。
そのような状態でAIカメラだけ導入しても、少し性能の高い防犯カメラとしてしか機能しないはずです。
このように、IT化とDXは異なる取り組みでありながら、IT化の土台の上にDXが成り立つという関係性であることは覚えておきましょう。
4. 事例にみるDXとIT化の違い

ここまで、DXとIT化にどのような違いがあり、互いがどう関係しているかを説明してきました。
ただ、実際の事例を見ないことには、腹落ちしない部分もあるかと思います。
そこでここでは、各企業が取り組むDXとIT化の事例を、それぞれご紹介します。
事例を通して、両者の違いをより明確に把握していきましょう。
4-1. DXの事例
まずは、DXの事例からご紹介します。

4-1-1. 呉服の小売企業が「体験を提供する企業」へと変革を遂げた事例
出典:【ドラマ仕立てで楽しく理解】平均年齢61歳の老舗着物店がDXへ挑戦!!DXってなんなん?!佐賀 小売企業編
呉服の小売販売業を営む株式会社鈴花では、「モノを売る企業から体験を提供する企業への進化」を目指してDXに取り組んでいます。
具体的には以下のような取り組みを通じて、新たな顧客体験の創出や、顧客との双方向のコミュニケーションを実現させています。
【取り組み】
【効果】
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これらの取り組みを通して、着物を着る機会の提供や、店舗・アプリでの質の高いコミュニケーションを実施し、まさに「体験を提供する企業」へと変革していることがわかります。
そして、そのようなビジネス変革が進む中で、新たな事業の創出や若手販売員のスキルアップなど、実益につながる効果も得られています。
このようなDXの取り組みは高く評価され、日本DX大賞のUX部門大賞を受賞しています。

4-1-2. 大手タイヤメーカーにおいて新たな事業の柱が創出された事例
出典:経済産業省「DX銘柄2023 選定企業レポート」
タイヤメーカー大手の株式会社ブリヂストンでもDXが推進されています。
ブリヂストンでは、「2050年 サステナブルなソリューションカンパニーとして、社会価値・顧客価値を持続的に提供している会社へ」という長期ビジョンの実現に向け、バリューチェーン全体でDXを推進しています。
そのため具体的な取り組みも多岐に渡るのですが、ここではその一端を以下の通りご紹介します。
【取り組み】
【効果】
※リアルタイムモニタリングサービスとは |
こうした取り組みは、DXの定義をわかりやすく体現した好例と言えます。
事実、リアルタイムモニタリングサービスの提供をはじめとするソリューション事業の売上比率は順調に拡大しており、ブリヂストンは最早単なるタイヤメーカーとしての枠組みを脱却しつつあるのです。
経済産業省でもこの取り組みを高く評価しており、ブリヂストンを「DX銘柄2023」に選定しています。
4-2. IT化の事例
続いて、IT化の事例についてもご紹介します。

4-2-1. 情報共有の効率化により売上にも好影響を与えている事例
出典:Chatwork
訪問介護事業を展開する株式会社ながいきでは、情報共有の効率化を図るため、チャットツールである「Chatwork」を導入しています。
その具体的な効果は以下の通りです。
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こちらの事例では、介護の現場においてチャットツールを活用することで、申し送り事項や利用者情報の伝達・共有が効率的に行われ、利用者の満足度向上にもつながっています。
さらに、残業においては、売上に直結する業務が行われており、同業界の平均的な売上の約2.7倍という高水準の売上にも寄与しています。

4-2-2. 給与計算にかかる工数が1日から1時間に削減された事例
出典:ジョブカン
俳優・タレントなどのマネジメント/キャスティング業を行う株式会社大沢事務所では、給与計算業務の効率化などを目的として、スマートフォンによる打刻が可能な「ジョブカン」を導入しました。
その結果、以下の通り効果が得られています。
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このように、給与計算にかかる時間が明白に短縮されていることから、人件費の観点でも余計なコストが削減できたことがわかります。
また、大沢事務所では働き方改革を進めていることもあり、給与計算の正確化・公平化はその大きな足掛かりとなっているはずです。
5. IT化で企業としての目的が達成できるならDXが必要とは限らない

事例を見てみると、企業としての目的を果たすために、DXに取り組む企業もあればIT化に取り組む企業もありましたね。
このことからもわかるように、IT化で目的が達成できるなら、必ずしもDXに取り組まなければならないというわけではありません。
重要なのは、あなたの会社の課題を解決し、将来のビジョンを実現することだからです。
そのために必要な手段がIT化であるなら、取り組むべきはDXではなくIT化なのです。
にも関わらず、DXが注目される状況に迎合してDXの推進を決断してしまうと、DX自体が目的となり、本来解決すべき企業課題や目的を見落としかねません。

例えば先ほどご紹介したような、情報共有の効率化を図りたい訪問介護会社で、「ヘルパー対利用者」の介護様式を、「AI/ロボット対利用者」に変革し、介護ロボットの販売にまで事業領域を広げたとしましょう。
こうした取り組みが「情報共有の効率化」という目的に対して過剰といえます。
それだけでなく、ヘルパーとのコミュニケーションの上に成り立つ利用者の安心感・信頼感を阻害し、従来の顧客が離れてしまうことにもなりかねません。
逆に、小売企業が、これまで蓄積した販売データや顧客データをもとに、モノの販売ではない事業の形成を狙うなら、IT化では不十分です。
このように、企業の抱える課題・目的に応じて、どちらに取り組むべきかは違ってきます。
適切な取り組みを進めていくため、まずは自社の課題・目的を洗い出し、進めるべきはDXとIT化のどちらなのか、慎重に見極めましょう。
6. DXに取り組むべきケース・IT化に取り組むべきケース

DXやIT化は、自社の課題・目的に応じて適切な方に取り組むべきだということは、すでにおわかりかと思います。
とはいえ、自社がどちらに取り組むべきか判然としないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこでここでは、DXに取り組むべきケースとIT化に取り組むべきケースについて、それぞれ説明しますので、ぜひご参考ください。
6-1. DXに取り組むべきケース
DXの定義を見てみて、自社の目的やビジョンに大まかに合致するのであれば、DXに取り組むべきです。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。 |
自社の目的に、「市場において優位な立場を築く」という視点があるなら、DXは目的達成の手段として必要になってくるはずです。
また、定義から、DXの取り組みとは簡単に言えば「ビジネスに変革を起こすこと」と捉えられます。
このため、ビジネスのあり方への変革が目的に盛り込まれている場合も、DXに取り組むべきと言えます。
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こうした目的を掲げながら、DXに欠かせないデータ収集・蓄積やデジタル技術の導入が不十分だと感じられることもあるかと思います。
その場合は、当社クエストが
- DXのためのデータ活用に必要な環境構築
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6-2. IT化に取り組むべきケース
IT化に取り組むべきなのは、一言で言えば「自社課題の解決に業務の効率化が必要」な場合です。
IT化は、「ITやデジタル技術の活用によって、業務プロセスを効率化すること」ですから、業務プロセスにフォーカスした課題や目的があるなら、現状ではIT化を進めましょう。
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ただ、こうした業務の効率化を実現させるための具体的な施策について、まだイメージがついていないということもあるかと思います。
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など、IT化を進める上でのお悩みやご不明点があれば、ぜひ一度クエストまでご相談ください。
7. まとめ
DXとIT化の違いについて、疑問が解消されたでしょうか?
最後に今回の内容をおさらいしておきましょう。
DXとIT化は、そもそも以下の通り目的が異なります。
【DXの目的】
ビジネスに変革を起こして競争優位性を確立すること
【IT化の目的】
業務の効率化
目的が異なるため、取り組み方にも以下のような違いが見られます。
違い | DX | IT化 |
規模 | 全社 | 部署/チーム単位から可能 |
期間 | 長期 | 短期でも可能 |
コスト | 大きな投資が必 | 少額から可能 |
実施後の変化 | ・ビジネスモデルの変容 ・新規事業の創出 |
業務の時間短縮/省人化 |
このように、そもそもDXとIT化は別個の取り組みであり、必ずしもDXに取り組まなければならないというわけではありません。
企業としての目的を達成するために必要なのがIT化なのか、DXなのか、適切に判断し、本当に必要な取り組みを進めるようにしましょう。