目次

デジタル庁のミッションとは

デジタル庁発足の背景

2000年にIT基本法(高度情報通信ネットワーク社会形成基本法)が制定されて以降、インターネット基盤の整備などが政府の重点施策として推進されてきました。

しかし、近年、公的部門においてデータを活用する仕組みが十分に整備されていない問題が認識されるようになりました。

特に、コロナ禍において給付金支給の遅れやワクチン予約をめぐる混乱といった、国や地方の情報システムが十分に連携されていない問題が浮き彫りとなっています。国連経済社会局(UNDESA)の「世界電子政府ランキング2020」では日本は14位となり、行政手続きの煩雑さといった弱みがあり、他国に比べ行政手続きのデジタル化やデジタルIDの導入が遅れている点が指摘されています(図1)。

このような状況を打破するため、デジタル庁が創設されました。

国連(UNDESA)「世界電子政府ランキング」における日本の順位推移

図1:国連(UNDESA)「世界電子政府ランキング」における日本の順位推移
※出典:総務省 令和3年版情報通信白書「仮想空間の今後の可能性と諸課題に関する調査分析事業 報告書

デジタル庁が目指す姿

デジタル庁は内閣直轄の組織として創設され、政府・地方自治体、並びに企業が協力しながら社会全体のデジタル化を推進する役割を担います。

具体的には、マイナンバーや法人番号などのID整備、民間企業が共通に扱えるデータ標準の策定、省庁や自治体が横断して使えるクラウド基盤の運用といった施策が含まれます。

デジタル化に関して省庁間を調整し、デジタル庁自身がシステム開発を牽引していくのが特徴です。

デジタル庁の発足に対する経済界の期待

補助金申請や税金など、企業活動に影響する行政手続きは多いため、デジタル庁の創設には経済界からも大きな期待が寄せられています。2021年9月には日本経済団体連合会新経済連盟からも、市民生活や民間経済活動においてデジタル化の恩恵を享受できるよう、各種施策の推進を期待するコメントが発表されました。

デジタル庁の動き

創設から間もないデジタル庁ですが、既にいくつかの政策が実行に向けて進められています。
以下には、政策の一部を紹介します。

ワクチン接種証明書アプリ

デジタル庁は新型コロナウイルスのワクチン接種の記録を証明するスマートフォンアプリを公開しました。

各市町村で実施された接種の記録(ワクチンの種類、接種年月日、ロット番号等)が含まれ、国内・海外で二次元コードとして表示することが可能です。

本人確認の手段としてマイナンバーカードを活用しています。

地方自治体や各省庁をまたがるワクチン接種手続きについて、デジタル庁が大きな役割を果たした事例と言えるでしょう。

電子署名

コロナ禍において対面ではなくても業務が滞りなく行われるようペーパーレス化に対する要求が高まりました。しかし、民間企業や公的機関で文書が改変されていないか確認する、あるいは、受信者・発信者が本人であることを確認するために、電子署名の手続きが必要となっています。デジタル庁は電子署名に関する法律の所管庁として、電子署名の正当性を確認する認証業務の認定などを行っています。

電子インボイス標準仕様

民間企業への影響が大きい施策の一つとして電子インボイス標準仕様の策定が挙げられます。異なる事業者間で受発注を行う上で、請求業務や会計処理を円滑にできるよう、電子化したインボイス(適格請求書)の仕様を標準化する動きがあります。デジタル庁は国際標準を日本の商習慣に合わせて拡張した「Peppol BIS Billing JP」を発表しています。

デジタル庁創設が企業のビジネスに与える影響とは

企業が注目すべきデジタル庁のデータ利活用戦略

2021年12月には「デジタル社会の実現に向けた重点計画」が発表され、デジタル化の実現に向けた理念・原則や基本戦略が示されています。

中でも民間企業及び準公共部門でのシステム整備やデータ標準の策定が重点計画に含まれており、民間企業にとってビジネスチャンスがあると考えられます。

以下では、各業界におけるデータ利活用戦略について考察します。

モビリティ

自動運転車やドローン、自動配送ロボットの実現には、運行環境をリアルタイムで把握し、経路を決定するよう、地理空間情報や気象状況、交通状況などを収集する必要があります。

異なる事業者間でもデータがやり取りできるよう、デジタル庁はシステム連携の仕組みに関する検討を始めました。特に、最新で正確なデータが利用できるベース・レジストリを整備し、データ連携を実現する方針が明らかにされています。IT技術により物流や交通を最適化するスマートシティ構想に取り組む民間企業にとって、価値あるデータが提供されることが期待されます。

分野を超えたデータ連携で安全で利便性の高いデジタル交通社会の実現を目指す

図2:分野を超えたデータ連携で安全で利便性の高いデジタル交通社会の実現を目指す
※出典:内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室

健康・医療・介護

個人の健康に関わるデータは、各医療機関や健康関連事業者に分散して蓄積されているのが特徴です。本人の同意に基づき、プライバシーを保護した形式でデータを集約し、個人に最適な診療や健康維持の喚起ができるよう、デジタル庁はデータ戦略を推進しています。厚生労働省のデータヘルス改革集中改革プランで提案された「医療情報を全国の医療機関等で確認できる仕組み」「リアルタイムの処方情報共有」といった施策にも、デジタル庁が関与していくものと考えられます。

民間の医療機関・研究機関や、医療・健康分野にIT技術を活用するヘルステック事業者にとって、データに基づく疾病予防・診断・治療などの新たな製品・サービスを開発する機会が生まれてくるかもしれません。

農業・水産業・畜産業

農業分野のデータ利活用は世界的に進展しています。

データに基づいた生産予測の精緻化や農産物の付加価値向上を目指し、同分野に新規参入した民間企業も増えてきました。政府は先端研究の情報共有や一元的な農地情報電子マップの整備などを通して、農業分野の産業競争力強化を進めています。

これまで内閣官房IT総合戦略室によって主導されてきましたが、今後はデジタル庁よって推進されていきます。

最後に

デジタル庁の創設により、行政のデジタル化が進み、民間企業にとっても行政手続きの迅速化といった恩恵が得られることが期待されます。

加えて、公共データの整備・公開、データの標準化が進んでいけば、それを活用したビジネスチャンスも広がります。

今後は、電子インボイス制度のように事業者間、あるいは、企業と公的機関との間でやり取りする書面についても、紙からデジタルへの移行が進んでいくでしょう。

企業はデジタル庁の動向に注視しつつ、今のうちからデータ連携・活用への準備、紙を前提とした手続きの電子化、電子署名への対応などを進めていく取り組みが求められています。