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データ活用の現状

データに基づいたビジネス上の意思決定は、あらゆる業界で求められるようになっています。顧客ニーズが多様化し、市場環境が複雑化する中でも競争力を維持するのに、現在の状態を見える化し、さらに、将来を予測できるよう、データの活用が進んできました。
また、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進や、IoT技術の発展など、データを蓄積する手段が増えてきたのも、データを重視した経営手法を後押ししています。


総務省「令和2年版 情報通信白書」によると、いずれかの領域でデータを活用している企業は、大企業では約9割、中小企業でも半数を超えています。特に、「経営企画・組織改革」「製品・サービスの企画、開発」「マーケティング」といった分野で活用が進んできました。


しかし、リソースに限りのある中小企業では特に、データ活用の取り組みを始めたものの、思い通りの結果が得られていない場合も見受けられます。
中小企業庁「2022年版 中小企業白書」で、デジタル化の取り組み状況の調査が行われ、「紙や口頭による業務が中心で、デジタル化が図られていない状態」「アナログな状況からデジタルツールを利用した業務環境に移行している状態」に留まる企業が4割以上を占めていることが報告されました。
一方、最も成熟した「デジタル化によるビジネスモデルの変革や競争力強化に取り組んでいる状態」まで到達している中小企業は約1割に過ぎなかったのです。


企業の競争力を維持・強化していくためにも、業務のデジタル化を図り、データ活用のプロセスを成熟化させる取り組みが求められています。

データ活用の目的

企業においてデータ活用を推進するには、その目的を組織内で共有する必要があります。その目的は、いわゆる「攻めのデータ活用(売り上げ向上)」「守りのデータ活用(コスト削減)」に分けられます。

(1)攻めのデータ活用

新規事業やイノベーションの創出によって、売り上げを伸ばすのにデータ分析を実施します。新たに取得できるようになったセンサーデータを使ってサービスを開発したり、ユーザーの行動を詳細に取得できるデジタルサービスへ進出したりといった戦略が考えられます。

既存の商品・サービスについても、機能追加やマーケティング施策の立案にデータが活用できます。勘や経験にとどまらず、人間では把握できないほどの膨大なデータの中から知見を見出し、客観的な分析によって顧客のニーズを探り、購買データに基づいて、買う確率が高そうな商品をレコメンドするといった機能は代表例です。

(2)守りのデータ活用

業務の効率化や、生産性の向上にデータを活用します。生産設備のリソースを最適化したり、担当者の作業負荷を軽減したりすることで、ムリ・ムラ・ムダを削減できます。

例えば、製造現場で機器が故障する確率を算出して、事前にメンテナンスを施すといった使い方が考えられます。

データ活用のプロセス

データ活用は一般的に、以下のようなプロセスを経ます。

(1)目的の設定

データ活用を進める前に、経営層から現場に至るまで、その目的を共有するのが第一のステップです。前述したように新規事業の創出や生産性の向上といったテーマを詳細化し、なぜデータ活用を進めるべきかという点を、経営課題として認識しておく必要があります。

効果を得るのに十分な予算や時間を確保するよう試みます。

(2)分析課題の設定

経営課題の原因と、その解決策について仮説を立てる局面です。どの業務が対象となるかを特定し、該当する部門と共に、業務プロセスを刷新する計画を立案します。仮説を立てることで、スコープが明確になり、分析対象となるデータが理解できます。

(3)データ収集

企業内には様々な情報があり、顧客データ、購買データ、生産データ、人事データ、広告データ、システムログ、オフィス文書などが含まれます。各業界に特化した情報もあるでしょう。

また、社外からソーシャルメディアの情報や、官公庁などによって広く公開されているオープンデータを取得する方法もあります。収集するデータは構造化データ(表形式の定量情報)と、非構造化データ(例:文章、画像、動画、音声)に大別されます。

(4)データ加工

収集したデータに不備があると、後続するデータ分析の結果も望ましいものが得られません。共通のフォーマットが適用されていない、数値の形式が揃っていない、データの欠損がある、名寄せがされていない、といった課題があり得ます。

「データサイエンティスト業務の8割はデータの前処理」と言われるほど、重要、かつ手間のかかるプロセスだとされています。

(5)データの可視化

データの傾向を視覚的に把握するよう、グラフなどを作成します。前述の「分析課題の設定」において検討した仮説を検証するステップでもあります。不足しているデータや不備のあるデータがあれば、データ収集のプロセスから見直すことになります。

データが分析システムに統合されていればBI(Business Intelligence)ツールを用いて簡単に視覚化ができます。

(6)データ分析

新規事業創出や生産性向上といったデータ活用の目的を達成するよう、業務に活かせる知見を見出します。データの分類や予測といった用途で、統計的手法やAIモデルを作成し、高度な分析を実施します。

最後に、データ分析の結果を業務に反映させ、効果検証を実施しなければなりません。データ分析は一度実施して終わりという類のものではなく、反復的・継続的に改善を目指すべきものです。
そして、このサイクルを効率的に回すために、データを効率的に収集・分析できるインフラやプロセスを定義しておくのが望ましいです。

データ活用を進める企業における課題

データ活用で全ての企業が望ましい成果を得られているわけではなく、各プロセスを実施する上で、課題を抱える組織も多いです。

本章では、データ活用を進める企業で見られる一般的な課題について、「人材・組織(People)」「プロセス(Process)」「技術(Technology)」の3要素から解説します。

(1)人材・組織(People)に関する課題

データ活用から業務の刷新につなげるには、データとビジネスの双方に理解を持つ人材の確保が欠かせません。特に、十分なリソースが確保できない中小企業では、人材の採用と育成に課題を抱える企業は多いでしょう。

分析作業を実施できないだけではなく、「適切な分析課題が設定できない」「どの業務にデータ分析が適用できるか分からない」「適切なツールが分からず、使いこなせない」といった上流工程での課題が発生してしまいます。
加えて、経営層や現場でデータ活用の価値を浸透させ、企業文化として定着させる必要があります。

(2)プロセス(Process)に関する課題

データ活用の目的設定から分析に至るサイクルを定義し、成熟化されていなければ、望んだ成果は得られません。
特定の担当者がExcelファイルで分析を行い、それが組織へ共有されていないといった場当たり的な対応をしていると、スキルや経験が属人化されてしまい、データ活用を組織に定着させるのが困難になります。

組織横断的にデータを収集し、データの鮮度・精度を保つには、データの収集・分析に関する戦略・計画・管理のプロセスを明確にする必要があります。

(3)技術(Technology)に関する課題

データ収集や分析に必要な機能を持った環境を整備する施策は欠かせません。データの量が増えたり、高度な分析を実施したりした場合でも、十分なパフォーマンスが提供できるシステムがなければ、担当者が継続的に使用することはないでしょう。

また、個人情報や機密情報を扱うデータ分析システムでは、情報漏えいのリスクがあるため、セキュリティ対策を講じる必要があります。
加えて、目的外で取得したデータを他の用途で使用するとプライバシーを侵害する恐れがあるので、個人情報保護についても考慮しなければなりません。

データ活用に関する課題への対応策

データ活用を推進する課題は「人材・組織(People)」「プロセス(Process)」「技術(Technology)」にまたがるため、その対応策も複合的なものとなる。
全てを解決するソリューションを探すのではなく、自社の状況に応じて徐々に成熟度を高めるよう努めることが推奨されます。


データ活用できる人材が必要だからといって研修を提供すれば済むというものではありません。
データ活用に携わる担当者を専任化させる、データ活用に責任を持つ経営層を任命する、情報システム部門と業務部門を横断したプロセスを定義する、といった組織・プロセス上の施策を組み合わせるべきです。


また、データ活用の知見を社内に蓄積するためにも、外部人材の協力を得る方法もあります。その際も、分析作業だけを丸投げするのではなく、目的の設定からデータ収集・分析に至る各プロセスについて、綿密に連携し、分析のサイクルを高度化させるのが望ましいです。


そして、データ分析のプロセスに対応できるデータ活用基盤の整備は欠かせません。増加し続けるデータを構造化し、分析作業を円滑にするツールがあって始めて、データ分析担当者が力を発揮できるからです。
Excelファイルでの分析によって属人化の課題を抱える企業では、組織が知見を共有しやすいBIツールが有効なソリューションとなり得ます。また、セキュリティやプライバシーに対応できる機能も求められます。

クエストのデータエンジニアリングサービス

クエストのデータエンジニアリングサービスは、分析に最適な環境構築からデータ収集支援までを一貫して行うことができ、データの解釈、検証、加工、管理を行い、データがすぐに活用できる形式に整えます。
これにより、データ分析プロセスの合理化を実現し、ビジネスの意思決定を加速します。お客様のデータ活用方針が定まっておらず、段階的な導入を希望される場合でも、ヒアリングによるアセスメント(事前評価)を行うなど、スモール・スタートの対応が可能です。
まずは、お客様のビジネスニーズに最適なデータ戦略を共同で策定します。

データエンジニアリングサービスは、当社のチームを現地に派遣し、ヒアリングを通して課題を特定、分析サンプルの提示、潜在的な解決策を探ります。
その後、評価レポートを作成し、アセスメント報告を行います。その結果に基づき、分析課題を抽出し、最適な解決策を提案することができます。

クエストは、AWS Redshiftを活用した統合データウェアハウスが利用できる環境を提供した実績があり、大量のデータを効率的に処理し、分析結果をビジネスに活用する支援も可能です。

クエストのデータエンジニアリングサービスの概要図

おわりに

データ活用で経営上の成果を上げるには、まず、データ活用の目的を明確にするステップから始めるのが望ましいです。データ活用に十分なリソースが確保できない、あるいは、データ活用を始めたものの望んだ成果が得られていない企業は、外部パートナー企業の力を借りる方法も1つの選択技です。

データ活用の目的が明確化できるよう、自社の状況について、専門家のアセスメントを受けることも推奨の1つです。