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「ESG・SDGs×フィンテック」に注目が集まる

近年の社会的な環境保護への要求の高まりを受け、日本企業の経営においても優先的に取り組むべき課題となっています。エネルギー消費やゴミの削減から、カーボンニュートラル・大気汚染の軽減といった分野まで、持続可能な社会を築く施策は多岐にわたります。国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)や、環境・社会・企業統治に配慮したESGを経営や投資の判断に組み入れる企業も増えてきました。

金融業界におけるESG・SDGs

金融業界も例外ではなく環境保護への注目が高まっています。帝国データバンクの調査では、金融業界におけるSDGsに積極的な企業の割合は56.0%に達し、業界別では金融業が最も高いという結果になりました。

金融業界における環境保護への意識の高まりを背景に、「環境に良い効果を与える投資への資金提供」を意味するグリーンファイナンスが、その規模を拡大しています。具体的には、再生可能エネルギー・生物多様性の保全・大気汚染の防止といったプロジェクトへの投資が代表例です。また、環境保護に資金用途を限定した債権である「グリーン債」の市場は2023年までに2兆ユーロに達するとの試算があります。(NN Investment partners調べ)

環境データを分析し、消費者の行動変容を促すグリーン・フィンテック

消費者の間にも日常生活を通じて環境保護へ貢献したいと考える人が増えており、そのニーズに応えるよう、「グリーン・フィンテック」が登場しました。金融サービスを情報技術によって革新するフィンテックに環境保護への貢献という要素を組み合わせた考え方です。

例えば、デビットカードと家計簿アプリを連動させ、交通費や食費といったカテゴリー別に支払いを分類した上で、それぞれの二酸化炭素排出量を可視化するサービスが開発されています。環境保護の観点から日々の消費行動を「見える化」し、消費者の行動変容を促すのが狙いです。

グリーン・フィンテックの発展には、モバイル専業銀行に代表されるような、金融業界のデジタル化が背景にあります。金融機関の口座情報やクレジットカードの支払い履歴といったデータがオープン化され、新たなサービスが開発しやすい状況になりました。また、AIやビッグデータの進歩により、膨大なユーザーデータを分析し、環境への影響を測定できるようになっています。

デジタル・ネイティブ世代を中心に支持を集めるグリーン・フィンテック

1980年代以降に生まれ、デジタル機器の発展と共に育ったデジタル・ネイティブ世代は特に、環境保護や社会課題への意識が高いと言われています。特に、学校教育でもSDGsを学習した若年層は「SDGsネイティブ」と呼ばれる場合があります。

Spectrem社の調査では、投資先を判断するのに社会的責任を考慮すると回答したのは、ミレニアル世代が52%だったのに対し、ベビーブーマー世代は30%にとどまりました。デジタル・ネイティブ世代が消費や投資の中心的な存在になるにともない、スマートフォンを日常的に使うこともあり、グリーン・フィンテックを支持する主要なユーザー層となっています。

海外で広がるグリーン・フィンテックサービス

英国の企業では、森林保護や生物多様性の保全に関わるプロジェクトを評価し、ユーザーへ投資の機会を提供するサービスが展開されています。また、スウェーデンの企業では、決済データから二酸化炭素排出量を算出する技術が開発されており、他社のサービスにも組み込めるよう、APIを介したプラットフォームとしての利用が期待されています。

日本でも注目が高まりつつあるグリーン・フィンテック

日本でも二酸化炭素排出量を算出するサービスを手掛けるスタートアップが、環境保護ソリューションを提供するよう、メガバンクと協業した例があります。さらに、教育・インフラ・労働環境・農林水産といった多様なデータを収集し、地方自治体におけるSDGsの取り組み状況を評価するサービスも登場しました。

東京都では「『国際金融都市・東京』構想2.0」の中でグリーンファイナンス市場の発展と、フィンテック企業の誘致・創業の支援などが謳われています。東京都の強みを活かしながら国際金融都市としての地位を確立するため、「グリーン」と「デジタル」を基軸として、多様な金融関連事業者を集積させようとする構想です。

図1 『国際金融都市・東京』構想2.0」での3つの施策

図1 『国際金融都市・東京』構想2.0」での3つの施策

グリーン・フィンテックへの期待と課題

グリーン・フィンテックは、消費者・企業・金融機関・政府・地方自治体といった利害関係者が協力して推進されるものです。前述のとおり、消費者が環境保護を意識した消費行動をとるようになり、それを支援するグリーン・フィンテックのサービスが開発されるようになりました。また、東京都の例があるように、行政もグリーンとデジタルを後押しする施策を進めようとしています。

環境保護対応が消費者にとって出費や手間の増加につながるものでは持続可能ではありません。同様に、企業にとってもコスト増加ではなく、他社との差別化や競争力の源泉となるよう考慮する必要があります。環境と経済が両輪となり、消費者の暮らしと経済発展を同時に活性化する取り組みが求められています。

環境投資や消費における課題として「グリーンウォッシング」が指摘されています。「エコ」「省エネ」といった表現によって、実際よりも過剰に環境に配慮した商品やプロジェクトであると誤解を与えることを意味します。森林の写真や緑色のパッケージで暗に環境へ配慮しているよう誤解させるものも含まれます。

加えて、製品自体はリサイクル製品であるが、製造過程で大量に二酸化炭素を排出し、サプライチェーン全体では環境保護がなされていないといった例もあります。グリーン・フィンテックを推進する上で、適切な投資・消費判断ができるよう、信頼できる情報であることを検証する仕組みが欠かせません。

最後に

環境保護やカーボンニュートラルといった取り組みは企業にとって避けては通れないものになっています。特に、デジタル・ネイティブ世代はよりESG・SDGsに関心が高いので、そうした世代を対象にした事業を抱える大企業では、グリーン・フィンテックの展開や提携が積極的に進んでいくことが予想されます。グリーン・フィンテックの効果が実感できるのは、まだ先になるかもしれませんが、ビジネスに欠かせない環境保護の取り組みを支えるためのデジタル技術の活用はますます盛んになっていくでしょう。