目次

メタバースとは何か

メタバースが注目される背景

メタバースとは「メタ(高次の、超越した)」と「ユニバース(世界)」を組み合わせた造語です。ビジネスにおいて厳格な定義がなされているわけではありませんが、共通しているのは仮想空間にユーザーが参加し、相互にコミュニケーションをとれる点です。現実とは異なる仮想空間の中で、複数の参加者が共同で経済活動を行ったり、商品の宣伝・販売をしたりできるようになります。

メタバースはゲーム及びエンタテインメント業界が先行していると言われています。特に、コロナ禍によって友人同士が対面で交流するのが難しくなった中でも、仮想世界の中でゲームを楽しむように、ユーザー同士が協力して行動したり、会話を楽しんだりできるようになります。

日本でも経済産業省が「仮想空間の今後の可能性と諸課題に関する調査分析事業」を実施し、仮想空間関連事業に参入する企業が直面しうる課題や展望について調査を行っています。従来のゲーム業界による利用だけではなく、メタバースがより多くの産業へと影響を及ぼす可能性があるのです。

仮想空間内のビジネス活用とメタバース

図1:仮想空間内のビジネス活用とメタバース
※出典:経済産業省「仮想空間の今後の可能性と諸課題に関する調査分析事業 報告書

メタバースを構成する要素

米国のベンチャー投資家、Matthew Ball氏はメタバースが持つべき中核的な要素として以下の7要件を指摘しています※。

 

  • Be persistent(永続的であり、終わりがない)
  • Be synchronous and live(現実世界と同様、全員にとってリアルタイムに時間が進む)
  • Be without cap to concurrent users(人数制限がなく、特定のイベントへ誰でも参加できる)
  • Be a fully functioning economy(個人や企業が資産の創出・保有・投資・売買などができる)
  • Be an experience that spans both digital & physical worlds(デジタルと物理、あるいは、プライベートとパブリックの両方にまたがる体験)
  • Offer unprecedented interoperability(異なるプラットフォーム間で持ち運べるデータ・デジタル資産・コンテンツ)
  • An incredibly wide range of contributors(個人や企業によって無数のコンテンツや体験が創出される)

 

※出典:Matthew Ball氏のブログから。

上記はメタバースに対する1つの見方であり、厳密な定義ではありませんが、これからの動向を考える上で有益なものではないでしょうか。今後、これらの要件を満たす仮想空間が開発されていけば、今あるインターネットの在り方を超え、個人にも企業にとっても、様々な機会が生まれてくることが考えられます。

メタバースに関連した技術

メタバースの普及や進展のためには、関連するIT技術の進歩が欠かせません。仮想世界を表現するCGや、没入感を与えるVR(仮想現実)といった技術が高度化していき、仮想空間内での行動が自然に行えるようになることが期待されます。

メタバースを考える上で、VRとの違いについて疑問を抱く人も見受けられます。VRはメタバースを実現する手段の1つですが、例えば、他のユーザーと交流ができないVRコンテンツはメタバースとは言えません。一方で、VRとは異なるAR(拡張現実)、MR(複合現実)という手法でもメタバースは実現可能です。

以下に、VR・MR・ARの違いを要約します。

 

  • VR:ヘッドマウントディスプレイ等を装着し、仮想空間に没入する
  • MR:透過型のスマートグラス等を装着し、現実空間にデジタル情報を重ね合わせて表示する
  • AR:スマートフォン等の画面上で、現実空間にデジタル情報を表示する
仮想空間内のビジネス活用とメタバース

他にも、ブロックチェーンや暗号資産(仮想通貨)といった技術もメタバースを構成する技術の1つと考えられます。仮想空間内で商品・サービスを売買したり、仮想空間内でのみ存在する資産を取引したりする際に、そのデジタル資産の所有権を証明する必要があるからです。NFT(非代替性トークン)という手法を用いてゲーム内で用いるアイテムの取引が行われた例があります。

メタバースの利用が期待されるユースケース

個人や企業が様々な活動を行えるメタバースは、ビジネスにおいても大きな影響があり、新たなビジネスモデルやユースケースが生まれてくることが期待されます。以下では、その具体例について解説します。

エンタテインメント

メタバース空間内での音楽ライブやスポーツ観戦イベントは既に話題を集めるようになり、今後、さらに活発に行われることが予想されています。これまで現実空間では同じ時間と空間を共有しなければならなかったイベントでも、メタバースであれば離れた場所にいる他の人と、同じ時間に同じ体験を共有できるようになるからです。

プロモーションやマーケティング

メタバース内にデパートの売り場や見本市のような環境を再現し、参加者が買い物を楽しむ用途が考えられます。現実空間と同様に、友人と待ち合わせする、店員に質問する、Eコマース機能により現実世界で実物を購入するといった使い方も可能です。さらに、メタバース内にあるアイテムやデジタルアート作品の購入も考えられます。メタバース空間への参加者が増えていくほどに、企業にとっては、広告宣伝活動を行う場として活用するチャンスが広がります。

  • メタバース空間におけるブロックチェーン技術を活用したNFT

ARやVRを活用したゲーム上のメタバース空間では、メタバース上のアイテムを所有者情報の信憑性を証明できるデジタル資産として売買できるようになりました。このデジタル資産には偽造・改ざんが困難なNFT(非代替性トークン)と呼ばれるブロックチェーン技術が使われており、すでに世界中ではNFTでの売買が行われていています。
デジタル資産にオリジナルとしての唯一性を付与することで、現実世界の絵画のように複製が容易なデジタルデータ(SNSの投稿やスポーツの試合映像など多岐にわたる)を売買・流通させられるようになったことは画期的な変化といえます。
※ブロックチェーン技術を基盤として、昨今ではメガテック企業の寡占領域ともいえるインターネットやSNSといったプラットフォームの在り方を根本から変化させるような「Web3.0(Web3)という概念」も注目を浴びています。

仮想空間内のビジネス活用とメタバース

共同作業とモノづくり

コロナ禍によってオンラインミーティングの普及が進みましたが、メタバースによって、より高度な共同作業が実現されることが期待されます。例えば、製造業において製品の設計やデザインを行う際に、3次元のデータを仮想空間で共有し、異なる場所にいる複数のメンバーが共同作業を進める方法が考えられます。MR技術を活用すれば、現実世界にデジタルデータを重ね合わせて表示できるので、あたかも同じ場所にいるかのように作業が進められます。

デジタルツイン

デジタルツインとは、現実世界で収集した工場や建築物を仮想空間内で再現する手法です。現実世界では確認するのが難しい条件でも、仮想空間内でシミュレーションを実施し、その影響が確認できるのが利点です。工場の生産体制向上や設備保全といったユースケースでの活用が期待されています。

メタバースという概念とデジタルツインという技術は、「仮想空間をつくる目的」や「現実と仮想空間との連動性」といった点で構成要素が異なるのですが、メタバースとデジタルツインの根幹の要素といえる「仮想空間を利用する」という点では非常に近いものだと考えられます。

近年、米国の某大手テクノロジー企業では、企業が物理空間に存在するものをデジタルツインとして作成できる3Dモデリングツールを公開しており、メタバース空間におけるコンテンツ制作を発展させる土壌も徐々に整ってきているといえます。また、このようなコンテンツ制作のツール群には機械学習などのアプローチも組み込まれてきており、コンテンツ制作の簡素化などが期待されています。
仮想空間におけるコンテンツ生成が促進されることで、メタバースとデジタルツインの双方の更なる発展が期待できそうです。

都市連動型メタバース

都市連動型メタバースとは、実在する都市と仮想空間内の都市が連動し、相互に関わりながら街づくりを進める考え方です。実際、渋谷区が公認した事業や、大阪府・大阪市が推進したバーチャルイベントの取り組みが実施されました。企業としては、リアルとバーチャルをまたがった新たな顧客体験の提供や、顧客価値を向上させる手段として、メタバースの活用が増えていくものと考えられます。

大阪府・大阪市が取り組む都市連動型メタバース「バーチャル大阪」の画面

図2:大阪府・大阪市が取り組む都市連動型メタバース「バーチャル大阪」の画面。
一般の方のSNSなどからのアイデアをもとにバーチャル大阪の開発が進んでいく。

メタバースの課題

メタバース空間に没入するうえで、最も深い没入体験を可能とするのがVR(仮想現実)デバイスの使用です。次に、装着がVRデバイスよりも容易でAR(拡張現実)機能を搭載した、スマートグラスがあります。スマートグラスは現実世界に映像を投影するといったライトなメタバース体験が可能です。最もライトなものにスマートフォンとAR機能を用いたメタバース体験があります。

メタバース空間に深く没入できるVRデバイスは性能の向上と低価格化が進んでいますが、日本の某コミュニケーションアプリ会社の調査によれば、VRデバイスを日常的に使用する人の割合は5%程度とのデータがあります。
現状、VRデバイスによるメタバース空間の利用ユーザーはゲーマーや一部のデジタル感度の高い人達に限定されているような状況です。デバイスのコストや性能、メタバース空間で体験できるコンテンツの向上には改善の余地が未だ多く、SNSを利用するような感覚で日常的にメタバース空間を楽しむ未来が訪れるにはもう少し時間を要しそうです。

ただし、メタバース空間の普及に貢献する企業は着実に増えており、スマートフォンなどから身近にメタバース空間を楽しむことができるユーザー体験を提供する事例も増えてきています。その他に、スマートグラスの市場が伸びている点や3Dコンテンツ制作の環境が発展していることも普及の後押しになります。
良質なメタバースコンテンツを楽しむことができれば、より本格的なVRデバイスによるメタバース体験に繋がる機会も増えていく期待がもてます。

最後に

メタバースの活用は先行するゲームやエンタテインメント業界だけではなく、様々な業界へ進んでいくことが期待されています。ブームとも言われる状況の中で、VR・MR・ARといった技術やデジタルツインといった産業用途も発展していくでしょう。また、メタバース内での経済活動が活発になるにつれ、参加者が守るべきルールや法律の整備も進んでいくかもしれません。このような業界の発展が、さらに他分野への活用へと広がっていきます。企業は、メタバースの今後の動向を注視しておく必要があるのではないでしょうか。