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ローカル5Gとは

通信事業者が2020年3月にサービス開始した「5G(第5世代移動通信システム)」は高速・大容量通信を可能にするものとして話題を集めています。さらに通信事業者ではない企業や自治体が個別にネットワークを構築できる「ローカル5G」も実証実験が進められるようになりました。

これまで企業向けネットワークでは有線LAN(イーサネット)や無線LAN(Wi-Fi)の利用が主流になっていました。しかしローカル5Gの登場によって新たなサービスや産業を生み出す契機になるとの期待があります。例えばオフィスや工場、物流倉庫、空港、駅、病院、イベント施設などにおいてローカル5Gの構築・運用が想定されます。

日本政府においてもローカル5Gを利活用する取り組みが進んでいます。社会課題を解決するよう、様々な利用場面を想定した実証実験が行われてきました。2021年には「総務省におけるローカル5G等の推進」が公表されています。

ローカル5Gの説明図

出典:総務省 情報流通行政局 地域通信振興課 「総務省におけるローカル5G等の推進

ローカル5Gの仕組み

ローカル5Gを導入するには、まず国から指定された無線局の免許を取得する必要があります。特定の建物や土地において、企業や自治体が基地局を設置し端末や機器との通信を実現する流れです。

ローカル5Gに似た用語として「パブリック5G」と「プライベート5G」があります。以下にその違いを示します。

パブリック5G

大手通信事業者が全国的に一般ユーザー向けに提供している通常の5Gネットワークを指します。事業者と契約するだけで広範囲での利用が可能になるので動画視聴・ライブ配信や自動運転、機器の遠隔操作といったユースケースが考えられます。

プライベート5G

企業や自治体の敷地内に通信事業者が専用の5Gネットワークを設置します。通信事業者に無線局の免許取得や基地局の保守・運用を委託できるのが利点です。

ローカル5Gのメリットとデメリット

これまでWi-Fiを利用していた企業や自治体がローカル5Gを導入する場合、広範囲で利用できる点がメリットとなります。工場や物流施設といった広大な敷地を持つ状況では、接続できる台数や範囲が広がります。

また、パブリック5Gのような公共の通信網を用いる場合、通信トラブルやネットワークが混雑した場合に影響を受けるリスクがあります。ローカル5Gであれば外部の状況に依存せず安定した通信が期待されます。加えてネットワーク内に閉じた環境でデータを送受信するのでセキュリティにも強いと考えられるでしょう。

一方、ローカル5Gを導入するデメリットとしてはコスト面が挙げられます。処理性能や信頼性が高い専用のネットワーク機器を購入する必要があり、また、導入範囲が広がるほどに基地局の数が増えてコストが増加します。また、電波利用料や免許取得に要する予算・工数も考慮しなければなりません。

ただし、コスト面に懸念があったローカル5Gも近年は低価格化が進んでいます。次章では低価格化によるローカル5Gの普及について解説します。

ソリューションの低価格化で普及が進むローカル5G

近年、各ベンダーが価格を抑えたローカル5G製品やサービスを提供するようになりました。Wi-Fiと同等の価格帯になることを目指しているため、今後ローカル5GがWi-Fiを置き換える場面も出てくると想定されます。

予算の限られた中小企業でもローカル5Gを導入できるよう、低価格化にはいくつかの工夫が見られます。例えばネットワーク管理機能をクラウド上で提供し、標準化した仕組みによって導入コストや運用負荷を低減する方法が挙げられます。また、アンテナと制御機能を一体化させた基地局によって、設置工事の費用を下げるソリューションも実現されました。

運用負荷を軽減するようマネージドサービスを提供するベンダーもあります。具体的にはネットワークのアラート検知やインシデント対応といった支援サービスが含まれています。

ローカル5Gの普及を後押しする要因として、利用できる周波数帯が広がった点も指摘されています。これまではミリ波(28GHz帯)と呼ばれる高周波数帯が用いられてきましたが、現在はSub6(4.5GHz帯)の利用申請が可能になりました。Sub6はミリ波に比べて、通信速度・同時接続数に劣る代わりに広範囲にサービス提供できるという特徴があります。

ローカル5Gのイメージ図

ローカル5Gの活用が期待される場面

ローカル5Gの低価格化により商用利用の拡大が見込まれています。以下では想定される活用シーンについて解説します。

オフィス、研究施設

ビルのフロア間や敷地内の建物間を結ぶ構内ネットワークにおいて、有線LANではなくローカル5Gが活用できます。特に研究施設のような機密情報が分散して存在する環境では独自のネットワークによってセキュリティを高めるローカル5Gの利点が活かせるでしょう。また、監視カメラの運用においても、高精度カメラの大容量通信を可能にし、問題が起きた場合にはアラームを動作させる使い方が考えられます。

生産設備、スマートファクトリー

生産ラインの自動化が進む中、機器の保守点検やセンサー及びロボットの管理において無線通信が欠かせないものになりました。しかし、既存のWi-Fiでは通信範囲が限られているため工場全体に安定した通信環境を提供するのに課題があります。その点、ローカル5Gは広範囲に安定した通信環境を構築し、リアルタイムの異常検知や予知保全を行って「スマートファクトリー」の実現に寄与します。

消費者向けサービス

ローカル5Gは企業や自治体での利用に関する議論が多く見受けられる一方、ソリューションの低価格化に伴い、消費者向けサービスを提供するベンダーも登場しました。例えば光回線の設置が難しい集合住宅や、通信設備の設置・撤去に手間がかかるケーブルテレビにて、今後ローカル5Gの利用が広がっていく可能性があります。

メタバース、デジタルツイン

仮想世界でユーザー同士が交流できるメタバースは、今後ローカル5Gの利用が伸びるであろう分野として注目されています。また、メタバースに関連し、産業分野では現実世界と似た環境を仮想世界に構築するデジタルツインの考え方も知られるようになりました。商品開発や技術検証、生産ライン効率化、エンターテイメントなどの分野での利用が想定されています。デジタルツインを実現する上で、現実世界の多様な情報をリアルタイムで収集することが求められるケースがあります。

そこで作業員や外部の環境を映したカメラの映像を、ローカル5Gを介して転送するソリューションが考えられます。
高速・低遅延の通信を提供するローカル5Gが、メタバースやデジタルツインを支える通信インフラとなっていく可能性もあるのではないでしょうか。

さいごに

オフィスや特定の土地・建物における通信環境を考える際には、有線LAN・無線LANの利用が一般的であり、これまでローカル5Gを積極的に検討してきた企業は少なかったかもしれません。しかし、近年の低コスト化によってローカル5Gの普及が進み始めました。通信範囲の広さやセキュリティといったWi-Fiにはないメリットにより工場や生産ラインといった様々な分野で実証実験や商用利用が広がっています。

近年では、新型コロナウイルスなどによるパンデミックや自然災害、大手通信キャリアによる通信障害など不測の事態の発生が相次いでいますが、そうした状況に対してローカル5Gの整備がBCP(事業継続性)対策になることも期待されます。また、メタバースやデジタルツインといった新たな領域でもローカル5Gの普及と共に産業の発展へつながっていくかもしれません。

このように、今後普及が期待されるローカル5Gですが、どれほど素晴らしいITサービスやテクノロジーの導入においても、そこには必ず人を介した設計、構築、運用監視、トラブル対応、ヘルプデスク等のサービスが発生します。そしてそのようなサービスは専門性や技術を持ち実績が豊富な企業が提供するサービスには適いません。新たなITサービスの導入においては、そうした企業のサービスを利用することも重要なポイントになるでしょう。