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新たな時代のオフィスの在り方

新型コロナウイルス感染症の拡大により、人との接触を避けるため、オフィスへの通勤を減らす動きが広がりました。以前までは当たり前のように通勤制度が取られていましたが、実際には、オフィスに毎日通勤しなくても成り立つ仕事があることがわかったのです。これまでも日本で開催される世界的イベントなどにおける都内の混雑を避けるため、テレワークを導入しようという動きはあったものの、普及はあまり進んでいませんでした。例えば、令和2年版情報通信白書(総務省)によると、企業のテレワーク導入率の推移は図のようになっています。

出典: 令和2年版情報通信白書 第2章 5Gがもたらす社会全体のデジタル化 第1節(総務省)

少しずつ広がってきていることがわかりますが、急激に増えているという印象はありません。しかし、この後2020年に入ってから新型コロナウイルス感染症の拡大により、テレワークの需要が急速に広がっていきました。例えば、東京都が実施した『テレワーク導入率緊急調査結果(※テレワーク助成金募集期間延長等(第330報)より)』の結果を見ると、テレワークを導入している企業が2020年3月から2020年4月の間に急激に増加していることがわかります。

出典: テレワーク「導入率」緊急調査結果(東京都)

パソコンで書類を作成し、メールやファイル共有サービスを使ってファイルを共有する、といったスタイルの働き方の人なら、テレワークに適しているといえるでしょう。自宅や外出先など、インターネットに接続できる環境があればどこでも仕事ができます。

社内の会議はもちろん、顧客との打ち合わせなどでも、直接対面せずにWeb会議ツールなどを使えば、どこにいても打ち合わせが可能になったのです。これは双方の移動時間だけでなく、交通費などのコスト削減にも効果を発揮します。

このため、テレワークに取り組む企業は急増しており、さらに「どこでも働ける」ということは、自宅にいる必要すらないと感じる人も増えているようです。

ワーケーションとは

インターネットにつながる環境があればどこでもいいとなると、必ずしも都会に住まう必要がなくなるのではないでしょうか。週末に田舎でのんびり過ごす、という過ごし方をしていた人にとっては、平日から田舎にいて、そこで仕事をすればいいのです。リゾート地などにいながらも、オフィスで働くのと同じように仕事をする。つまり、仕事(ワーク)と休暇(バケーション)を両立する考え方が「ワーケーション」です。

働く人にとっては、休日における移動時間を減らすことにもつながり、モチベーションの向上が期待できます。リフレッシュした環境で働けることで、柔軟な発想ができ、新しいアイデアが浮かんでくるかもしれません。

企業にとっても、そのような働き方を推進することで優秀な従業員を採用できたり、都心にオフィスを構えるコストを削減できたりする可能性があります。

一方で、会社としてはメリットだけを考えているわけにはいきません。従業員に対して高速なインターネット環境を用意するだけでなく、VPNなど安全に社内ネットワークに接続できる環境を構築する必要があります。もちろん、移動して使うためにノートパソコンを購入して貸与したり、Web会議ツールなどのソフトウェアを購入したりする必要もあります。また、外部で個人情報や機密情報を扱う仕事の場合は、セキュリティのリスクも発生します。ネットワーク上での盗聴だけでなく、パソコンの紛失や盗難などについても注意しなければなりません。

このような場合には、クラウドやネットワーク、セキュリティなどインフラに関するさまざまなソリューションが求められるでしょう。

さらに、従業員の働き過ぎを防ぐことも課題になります。誰も見ていない環境では、残業などを管理する人もおらず、オフィスにいるとき以上に働き過ぎてしまうものです。新入社員や新たな部署に異動したときの教育の問題もあります。オフィスにいれば隣で教えられたものが、離れた場所にいるとスムーズに教えられません。

ワーケーション導入のために

課題はあるものの、それを解決するために動いている企業はたくさんあります。そして、それをサポートする動きも登場しています。

企業にとっては、自由度の高い働き方を認める雰囲気を作る必要があります。特定の人だけがリモートで働いていて、それを邪魔する動きがあってはいけません。場合によっては、企業が率先して従業員に在宅で働ける環境を構築する費用を出したり、推奨したりする制度が必要でしょう。例えば、地域主体でコワーキングスペースや旅館、ホテルなどを提供している場合もあります。また、本拠地を地方に移し、社員の生活環境もその土地に整えるような企業もあります。

地方にとっては地域を活性化するチャンスです。これまで都心でしかできなかった仕事が地方でもできるなら、移住する人も増えるかもしれません。観光だけでなく、ビジネスの拠点として使ってもらえる可能性があるのです。

地方都市で、ワーケーションに取り組む人を呼び込んでいる自治体も増えています。「いつもどおりの仕事を行いながら、いつもと違う場所(普段の生活圏外)に滞在し、いつもと違う経験・体験をすることができる」、というワーケーションの特徴を活かし、地域課題の解決や新たなビジネスが生まれることを期待しているようです。

さいごに

政府も推進する「ワーケーション」。新たなビジネスチャンスと考えて、試してみてはいかがでしょうか?