株式会社日本能率協会マネジメントセンター

一人ひとりの人生・成長に寄り添うことをコンセプトに、現在では「人材育成支援」、「手帳」、「出版」の3つの主要事業を手がける株式会社日本能率協会マネジメントセンター(以下、JMAM)。

1949年に生み出されたロングセラー商品「能率手帳」を、2013年に「NOLTY(ノルティ)」ブランドへと再構築するなど、時代に合わせ事業のアップデートを進めてきた。今後はこれまでビジネスパーソン向け中心であった事業に加え、一人ひとりのライフスタイル全般における成長支援まで広げていくことを予定しているという。

JMAMではこの新たなステージに向け、積極的に生産性の向上に取り組んでいる。その一環で進められたRPA(Robotic Process Automation)ツール「WinActor」の導入について株式会社日本能率協会マネジメントセンター 総務部の細野 肇氏と営業統括推進部の山崎 美江氏に話を伺った。

【お話を伺った方】
株式会社日本能率協会マネジメントセンター総務部 細野 肇氏 (写真)
株式会社日本能率協会マネジメントセンター営業統括推進部 山崎 美江氏

● Point
まずはスモールスタートで自動化の成功体験を。導入のカギは自社の業務のなかで自動化できる業務の洗い出しを行うこと。

課題と経緯

業務に寄り添ったデモによりRPA導入イメージが明確に

JMAMでは、主要事業である「人材育成支援」においては多様な学習形態やツールを用意している。個人学習ツールとして「通信教育」「eラーニング」、集合学習としては、リアルなコミュニケーションによる「研修」、あるいは「公開セミナー」など様々な方法で一人ひとりの成長を支援している。

多くのコンテンツを有し、様々なプログラムの運用を、一社ごと、個人ごとに対応する必要があるため、各事業において非効率な業務が積み上がった状態となってしまった。そのため、生産性向上のために大胆な改革を必要とする機運が高まり始め、2016年頃から社内で議論が開始されることとなった。そこで着目したのがRPAツールだ。

機能面もさることながら、現場の業務担当者レベルで運用・修正ができるという身軽さと、コストの負担も少ないことから、「スモールスタート」として、一部門での導入から取り組みを始める。対象となった部門が、人材育成支援を担う能力開発営業本部だ。当時、同部署に所属していた山崎氏は次のように語る。

株式会社日本能率協会マネジメントセンターのご担当者様とクエスト社員との対談風景

「当時、業務プロセスがもっとも煩雑だったのが、通信教育における登録業務でした。通信教育は毎月15日締切で月に1回開講します。全国のオフィスで受付をおこなっていますが、中でも東京はお客様の企業も多く、登録数も年間1万件、受講者数だと10万人超に及びます。

その登録数自体も問題でしたが、フォーマットや請求書の送付先などがお客様ごとに異なるという事情もあり、登録作業自体が複雑でした。さらには講座で利用する教材も個人ごとに送るか、支店単位で送るかなどもお客様の要望で異なります。

このようなお客様ごとにカスタマイズされた業務は属人化される傾向にあり、担当者が退職した際などには引継ぎが十分でないこともありました。40年にわたる事業のため、長期間のお付き合いで数多くの要望に応え続けてきた結果です。

これはお客様にきめ細やかなサービスを提供できている証でもありますが、同時に担当者の業務負担は増加する一方です。また、通信教育の申し込みは繁閑の差が激しく、忙しい時期は担当者が休日出勤をして対応しても捌ききれないほど。

これでは『働き方改革』もままなりませんし、健康面の問題も生じかねません。その時にRPAのことを上司から聞きました。具体的に何ができるのか不明な部分も多かったのですが、まずは調査から開始することになりました。」

RPAという言葉自体は検索エンジンで調べればすぐに知ることができる。しかし、何ができるか、自社の業務のどこに当てはめられるのか、という肝心なところはわからない。そこでRPAツールを取り扱う複数の企業の営業担当から話を聞いたり、セミナーに参加したりと理解に努めたが、最後まで自社の業務に実際にフィットするかはイメージできなかったという。

そのタイミングでクエストの小野寺と安部に声がかかることとなった。

「自分で調査をしていったところ、『WinActor』でやりたいことができるだろうという予測はできていました。しかし、導入してみないと自社の業務に適合するかどうかわからないのでは、前に進めていくことができません。

クエストの営業担当である小野寺氏とRPA推進担当である安部氏、新井氏は業務内容を丁寧にヒアリングしてくれ、受注前にもかかわらずデモ画面で私たちが期待していた対象のプロセスが自動化できることを検証してくれました。

もちろん全ての要件を検証するというわけにはいきませんが、ひとつでも実際に適用可能かどうかがわかるとこちらも決断できます。」と山崎氏は当時の状況を振り返る。

WinActor シナリオ作成画面(サンプル)

※WinActor シナリオ作成画面(サンプル)

実はJMAMとクエストは通信教育事業創成期から業務を委託し支援してきた間柄でもある。その関係性の中で業務内容の煩雑さや業界慣習などに通じていた点も発注決定における要因のひとつとなったという。

RPAは、業務プロセスを理解した上で効率化できる工程を見定め、業務を分解した上でタスクに落とし込んでいく。

そうした一連の流れを考えると、業務理解を求めたくなるのも当然といえるかもしれない。クエストが多くのお客様から評価を受けるポイントである「お客様に寄り添い、共に課題に向き合う」点がRPAの分野ではより求められているともいえる。

導入

350時間の工数削減で現場負担が大幅に軽減

クエストによる「WinActor」導入が決定後、プロジェクトチームが立ち上がり、導入を速やかに進めていくこととなった。今回の通信教育部門への導入は全社展開への試金石であり、導入効果の最大化が経営層からは期待されている。

あくまで「スモールスタート」ではあるが、失敗は決して許されないのだ。成功体験を積み上げるためには導入する業務の選択が重要なポイントとなる。JMAMからリクエストを受けた5業務をそれぞれ検証した上で、実現可能かつ効率化による恩恵が高い3つの業務に絞り込み導入を進めていくこととなった。

RPAというと、どのような業務でも自動化できると捉えている人も少なくない。また、ツールによっても適用範囲が異なり、「WinActor」では対応できないタスクもある。そして、既にシステムが構築されている場合には、そのデータベースやユーザーインターフェイスの設計にも依存することになる。

それぞれをひとつひとつ、ツールでのタスクに落とし込めるかどうかを判断する必要がある上、動作検証を繰り返して正確に業務が自動処理されるまですり合わせていかなければならない。さらには、稼働後に利用する作業者の使い勝手も考えなければならない。

すなわち、単純なツール導入というわけではなく、業務や利用現場に合わせたカスタマイズが必要となるのだ。

導入プロジェクトに参画した、クエスト安部(左)クエスト新井(右)

導入プロジェクトに参画した、クエスト安部(左)クエスト新井(右)

「RPAでどこまで自動化できるのか、導入前に期待と不安の両面があったのは事実です。これまで属人的に対応してきた業務も多く、どうしてもルール化するロジックに落とせない業務もありました。しかし、中には9割近く自動化できた業務もあり、半年間の合計で350時間の工数削減を実現できました。工数削減による残業代等の人件費抑制ももちろんですが、精緻かつミスが許されない業務が自動化されたことにより精神的な負担が減ったことも現場の担当者には大きかったです。」(山崎氏)

効果と展望

生産性向上を目指してさらなる業務改革を

JMAM社のWinActor シナリオ作成PC プロジェクトメンバーに「ロビンちゃん」の愛称で親しまれています。

JMAM社のWinActor シナリオ作成PC プロジェクトメンバーに「ロビンちゃん」の愛称で親しまれています。

JMAM社内での導入事例の共有がなされ、その効果が目に見えるようになり、RPA導入は他部門の社員からも関心を集めることとなった。足早に進めた結果、すでに10の業務でRPA導入が完了。

今後、候補に上がっている11の業務に加え、他部門も巻き込んだ横展開が進みつつある。進捗状況の確認や事例の共有、更には、新たな業務対象への展開など、全社で月に一回、20名程度が参加する定例会で活発に議論されている。

「私たちは現在、業務改革の一環としてRPA導入を全社で推進しています。『スモールスタート』で始めたものが着実に成果を上げていることに強い手応えを感じています。一方で、RPAは『魔法の杖』ではありません。
生産性を上げるための一つの手段です。RPA導入をきっかけにして、業務フローを見える化し、効率化できることはないか、標準化できることはないかを考えてほしい。そして、意識変革によって日常の中で、仕事の効率性を考えることが習慣化される風土が従業員にも根付くことを期待しています。クエストには伴走するパートナーとして、社内での旗振り役の黒子としての役割を担ってほしいと思っています。」(細野氏)

持続的に事業を成長させるためにも、今回のRPA導入を皮切りに、さらに生産性向上を果たすべく業務改革の必要性を感じている。そして、今回の取り組みをきっかけに、より俯瞰的な観点でシステム全体を見直すことも視野に入れているとのこと。

クエストはJMAMの改革の成功を後押しすべく、これからも寄り添い向き合うスタンスのパートナーであり続けたいと考えている。

※WinActorは、NTTアドバンステクノロジ株式会社の登録商標です。

 

取材日:2019年2月15日

会社名
株式会社日本能率協会マネジメントセンター
【英文名: JMA Management Center Inc.】
【略称:JMAM (ジェイマム)】
拠点
本社:東京
支社:東北・大宮・横浜・名古屋・京都・大阪・広島・福岡
設立
1991年8月8日
売上高
連結 162億円 (単体 137億円)
※2018年6月期
従業員数
連結 523名 (単体 394名)
※2018年6月時点